【Ai×法務】リーガルテックとはいったい何??人工知能活用によるメリットデメリット

テクノロジーの進歩により、従来は人間の脳が行っていた能力・活動を模倣し再現できるようになったAI(人工知能)。AIはこれまでになかった新しいサービスや製品として、世の中に浸透しつつあります。現在では幅広い業界でAIが使用され、ニュースや新聞でもAIの報道をよく目にするようになりました。
AIがチェスや囲碁や将棋で人間に勝利したというニュースもあれば、AI活用による渋滞予測、AI×ロボットを駆使したスマートファクトリーなども期待されています。さらに将来的には、AIは法務(法律の仕事)も担うようになると予測されているのを、ご存じでしょうか。そこで今回は、AIを活用した法務「リーガルテック」についで、お話したいと思います。メリットやデメリットについても解説するので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
目次
リーガルテックとは
リーガル・サービスを提供するために活用されるテクノロジーのことを「リーガルテック」と呼びます。近年ではあらゆる業界において、テクノロジーの普及が進んでいます。デジタル化やテクノロジーを活用したサービスは、「〇〇(業種名)+テック」と表現されています。フィンテック(金融系)、ヘルステック(医療・健康系)などのサービスを、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。リーガルテックの場合は、リーガル(法律・法務)とIT・AI・テクノロジーを融合したシステムを表現します。
リーガルテックの発祥は、他のさまざまなテクノロジーと同様にアメリカにあります。歴史をたどると、1970年代に開始されたアメリカの「CALR(Computer-Assisted Legal Research)」に関する技術研究・開発まで遡ることが可能です。アメリカでは年々リーガルテック市場が活性化しており、2018年と2019年には10億ドルを超えました。
日本においてもリーガルテックは、ここ数年で注目を集めるようになっています。2016年~2023年までの「CAGR(年平均成長率)」は9.8%で成長し、2023年には353億円に拡大するとも予測されています。日本国内においてリーガルテックは、これから普及していく段階と言えるでしょう。
リーガルテックが想定する法務とは
法務にAIが参入するといっても、弁護士や裁判官などの分野には、まだまだ参入しそうにありません。現段階でリーガルテックが想定されている法務には、以下のような事柄が挙げられます。
過失割合を想定する
自動車が事故を起こした際に、AIがそれぞれの運転手に質問し、過失割合を想定します。過去の膨大な事故記録から類似の事故を発見し、その事故における過失割合を調査します。
その結果に基づいて判断を行いますが、双方が納得しない場合もあるでしょう。不満を持った側が裁判を起こす事態も考えられますが、仮に裁判官がAIとは異なる判断を下した場合でも、AIはその結果を学習して次に活かします。これを繰り返すうちにAIと裁判官の判断は近付き、最終的に多くのAIによる判断が承認されるようになるでしょう。
契約書不備を検知する
企業には法律専門の法務部を抱えているところも少なくありません。法務部には契約書の内容が、自社にとって不利でないかと問い合わせを寄せられることも多いと思われます。
また特許などに関する相談を受けることもあるでしょう。しかし法務部にあまり多くの担当者を置かないという企業も、よく見受けられます。その結果回答が遅くなり、他の部署から不便に思われることもありますよね。
しかしAIを活用すれば、契約書を読ませるだけで自社に不利となる条項を判定することも可能となります。よく質問されやすい質問や法律の問題をAIに覚えさせておけば、自動回答できるようにもなるでしょう。これにより法務担当者は重要案件だけに集中できるようになるので、企業にとっても大きなメリットにつながります。
リーガルテックでAIに求められること
法務にAIが参入することで、AIにはどのような事柄が求められてるのでしょうか。一つずつ見ていきましょう。
人手不足、労働時間の見直し
近年、日本では少子高齢化に伴う労働人口の減少が課題となっています。今まで人の手が必要とされていたビジネスは、今後維持するのが難しくなっていくとも予想されています。また定められた労働時間の超過による過労死を防ぐために、「働き方改革」を政府は推進しています。残業時間制限、副業禁止、リモートワークの推奨といった事柄が、企業側には求められていますよね。
この流れは、法務業務でも例外ではありません。しかしどうしても印鑑を捺さなければならない書類があったり、すぐに契約書を作成して郵送する必要があったりと、さまざまな事情で出社を余儀なくされるケースもあるでしょう。リーガルテックでAIによるシステム化が進めば、手間と時間のかかる法務業務が楽になります。人手不足や残業時間の超過といった問題を、解決してくれるでしょう。
業務プロセスの見直し、効率化
法務業務で欠かせない契約の締結や見直し、契約書の作成・郵送といった業務には、従来は人の手が必要でした。この分野にAI技術を導入することで業務効率化、人件費削減、コスト削減、リソース確保などの効果が期待されています。
業務プロセスの見直しにより、無駄な業務の特定や、業務遂行方法や社内手続きに改善が図れるようになれば、仕事全体の迅速化が実現できます。労働人口が減少し、限られたリソースを適切に割り振らなければならない時代にこそ、ITやAIの技術が求められるでしょう。こうした背景から、AIを活用したリーガルテックが求められているという一面もあります。
リーガルテックのメリット
リーガルテックには以下のようなメリットが挙げられます。
AIによる電子契約書の作成、管理がスムーズに行える
インターネット上で契約を締結する行為を「電子契約」と呼びます。オンラインで契約が締結できるため、インク代や郵送料などの事務経費がカットできるというメリットがあります。さらに契約金額に応じて課税される印紙税も、電子契約の場合は課税されません。印刷、捺印、郵送などあらゆる手続きが必要ないので、契約書に関する時間や手間が大幅にカットできるでしょう。
契約書チェックにかかるコストが削減できる
AIシステムで契約書のチェックを行うので、人件費などのコスト削減にもつながります。契約書チェックなどは弁護士や法務担当者など、原則として専門知識を持った人が行います。そのため多くの時間や費用が発生しますが、AIシステムを利用すれば大幅なコストカットにつながります。AIを活用することで、あまり法務知識がない人でもチェックが行えるようになるでしょう。
フィードバックが早い
AIでチェックした契約書内容のフィードバックが早いこともメリットの一つです。たとえば外部の弁護士に依頼する場合、通常はチェックが完了するまでに時間がかかります。しかしAIの契約書チェックなら、ツールにアップロードするだけですぐにフィードバックが得られます。システムにもよりますが、早いものでは数時間程度でフィードバックが入るでしょう。
知見の共有・管理ができる
リーガルドキュメントを作成するには、過去の事例や何らかのひな形を基準にしなければなりません。このベースとなる部分をAIで一元的に管理でき、アクセスが容易になれば業務効率化につながります。差分管理によって、あらゆるバリエーション比較が手軽に行えるのもメリットです。個人だけではなく組織内で知見を蓄積・共有することにつながり、担当者の転職や退職によって知識が失われることも防止できるでしょう。
リーガルテックのデメリット
リーガルテックにはデメリットも想定されます。現状のリーガルテックは、すべての契約を網羅しているわけではありません。特殊な契約や前例の少ない契約のチェックには、あまり向いていません。たとえば建物の賃貸借契約や投資信託契約などは、書面での契約締結が法律で義務となっています。これらの場合は電子契約が認められていないので、注意してください。
電子契約に心理的な抵抗を持つ社内の関係者がいる場合には、説得する時間を設ける必要もあります。心理的な抵抗を省くためにも、時間をかけてリーガルテックのメリットや安全性などを丁寧に説明しなければなりません。またAIシステムで契約書自体の確認はできても、チェック専門の担当者がいなくなることで、トラブルが発生した場合に責任の所在が不明瞭になる可能性も考えられます。これらのことは、リーガルテックを導入する上でのデメリットと言えるでしょう。
まとめ
日本国内におけるリーガルテック市場は、今後の成長が期待されている分野です。法律や過去の事例を記憶・解釈する能力は、これからAIが人間の能力を追い越していくと予測されます。しかし責任の所在や個別の事情など、最終的な判断は人間が下さなければならないケースも少なくないでしょう。
リーガルテックは、まだまだこれから普及が進んでいくフェーズにあると言えます。今回紹介した内容を踏まえ、メリットとデメリットを考えた上で、導入を検討してみてください。