『災害大国』の日本にとってAiを活用することは防災、減災につながるのか?

日本は世界の中でも地震や津波、台風などの自然災害が起こりやすい『災害大国』と言われています。
こうした自然災害と向き合っていく中で防災を含めた自然災害対策は重要な課題となっているわけですが、近年Aiの発達によって、従来は困難だった精密な被害予測や、効果的な救助活動が可能になりつつあります。
Aiの活用で、自然災害による被害を減らすことができるとすれば、どのような活用方法があるのでしょうか。
今回は、実際の活用事例と共に、今後の動向について言及していきます。
目次
自然災害におけるAiの活用方法と事例
自然災害対策や防災分野におけるAiの活用方法としては、大きく下記の3つに分けられます。
①【防災】自然災害の事前予測、または災害発生時の被害想定
②【被災状況把握】災害発生時の情報収集、救助の計画などを支援
③【多言語コミュニケーション】災害発生時のインバウンド観光客に向けた避難誘導など
ここからはそれぞれの分類別のAiの活用方法と事例を紹介していきます。
・防災分野でのAiの活用
国立研究開発産業技術総合研究所(産総研)では、日本電気株式会社(NEC)と共同で、Aiを活用した技術の開発や、様々な産業へのAiの活用における研究が進められています。
中でも、現場において足りない情報をシミュレーションで補いつつ、Aiの能力を最大限に引き出す『シミュレーションとAiの融合技術』は、自然災害に有効的であるとされています。
従来では、大規模な災害など過去のデータが多くないものの場合、ビッグデータを処理することは難しいとされていました。つまり、大規模な災害等は過去のデータが不十分なためにAiによる予測が難しかったということです。
しかし、同研究では、観測したい現象だけを集中観測する技術の開発に成功したことで、Aiはより効果的な機械学習ができるようになりました。更に、シミュレーションとAiを融合させることにより、災害発生の時期や、規模が予測できるようになるため、事前の避難や効率的な避難準備作業が可能になります。
特に、昨年2019年発生の台風19号では、水害や災害報道にとどまらず、北陸新幹線車両基地の水没による交通への影響や、文化財の水没など、社会への影響は多方面に拡大しました。
このようなスーパー台風の発生は、地球温暖化の影響により、今後増えていくことが予想されています。しかしそのような際もAiやシミュレーションを活用し具体的な発生しうる大きさ、勢力の強さなどが予測できれば、洪水やインフラ対策などの防災対策も一層効率化されることが考えられます。
・被災状況把握へのAiの活用
防災の次に大切になるのは、実際に自然災害が起こってしまった際その状況を多くの人が正確に把握するための『被災状況把握のツール』です。
特に従来でもテレビやスマホなどは、情報発信ツールとして活用されています。また、東日本大震災の際にはSNSが広く活用され、広域の被災状況の情報収集や共有に対してSNSの活用は有効的であることが認められました。しかし、これらは人手に依存しておりその情報の整備や統合において改善が求められている状況です。
その点を解決するために、Aiの活用が始まっています。
特に、ユニバーサルコミュニケーション研究所では、Aiを用いてTwitter上に投稿された災害関連情報をリアルタイムに分析し、都道府県、市町村単位でエリアを指定すると、指定エリア内の被災報告を瞬時に要約することができるシステムを試験公開しました。
これにより、従来は人間がSNSを確認して情報確認や場所の特定をしていたものが、Aiによる分析が可能になることで各種支援や避難指示等を効果的に行うことができるようになります。
更には、今後の災害時、救助ヘリ等の活動を妨げない範囲でAiカメラを搭載した小型のドローンを活用して被災地域の状況を、Ai画像解析によって判断することができるようになります。そうすることで、土砂崩れの危険性や、火災延焼の可能性の認識など、専門家でなければ判断がつかなかった判定も可能になり、より高度な被災状況の発信や分析が可能になるわけです。
また、LINE株式会社では、多くの日本人が利用しているコミュニケーションアプリ「LINE」が災害発生時に有効活用できるよう、災害時に役立つ機能の充実に取り組んでいるそうです。テキストや音声などでコミュニケーションを図る『AIチャットボット』を自治体の問い合わせ窓口として導入し、よりスムーズな情報共有を実現するといいます。
このようにSNS上に投稿された情報を把握したり、SNSでリアルタイムのやり取りを行うことで被災地のリアルな状況をAiが把握し、効果的な避難誘導や救助活動に役立てることが期待できます。
・災害時の多言語コミュニケーションにおけるAiの活用
このような自然災害時において、自治体が策定している避難計画はその地域の住民が対象であり、企業の従業員については企業が避難計画を策定しています。
ですので、近年増えつつある外国人観光客の避難については現状策定がなされていないわけです。
実際に、訪日数の多い、中国、韓国、台湾の訪日経験者へのNTTレゾナントのアンケートによると、『日本で被災した場合に最も困ること』として『日本語への通訳』という回答が多く見られました。更に、約9割の回答者が自国語に対応した防災アプリをインストールしておきたいと回答があったといいます。
今夏には東京オリンピックを控えている日本ですが、その際に自然災害が起きる可能性が0であるとはもちろん言い切れません。観光地やスポーツの観戦施設などでAi技術を搭載した翻訳サービスや翻訳機器の導入が始まってきているようですが、これらは、突発的な災害時にもインバウンド観光客への円滑な避難指示や意思疎通を可能にするともいえるでしょう。
Aiを活用した自然災害対策が日本の防災、減災を実現
上記の事例は一部ではありますが、近年多くの企業がAiを活用した自然災害対策を行っています。また、先ほども例に出した『台風19号』が接近した際は、神戸市内に設置された災害対策本部において、Aiアナウンサーが最新の状況を配信しました。神戸市は、昨年4月から災害発生情報の配信サービスを試験的に導入しており、実際に三ノ宮駅で看板が落下した情報を発生直後にキャッチし、関係先へ連絡、人的被害がないことなどを迅速に確認ができたといいます。
このような、Aiを活用したSNSに投稿された火災や事故、自然災害などの写真や動画を自動収集し、分析、解析したうえで配信する仕組みは現在、観光庁や自治体、マスコミ等に広がってきています。更に、投稿に含まれるデマや誤情報に関しても、過去の写真などと照合して真偽を判別する機能なども充実してきているのだそうです。
今後、Aiによる事前の自然災害の予測がより精密化されれば、事前に必要なものをそろえたり、安全な場所へ移動したりすることができるようになることで、二次災害などを防ぐことにもつながるかもしれません。
特に、高齢者の中には、災害発生時に若年層の人々と同じスピードで避難をしたり、はたまた1人で動くことが困難な方もいらっしゃるでしょう。そのような方にとっても、事前にどのような規模の災害がどの場所で起こるのかということが把握できれば、それに備えて準備をしておくことができるようになります。
現状で、Aiを活用したことで大幅な減災が実現出来た事例はまだありませんが、今後はこれらのサービスが更に発達、進化していくことで、防災や減災が実現できる未来も近いといえるでしょう。
まとめ
今回ご紹介した事例は一部ではありますが、自然災害の多い日本にとってAiを活用した防災対策や減災対策などのサービスは増えていくことが予想されます。
自然災害はいつどこで、どのように起こるのか、人間には到底予測が出来ません。だからこそ、常日頃から防災グッズを所持しておくなどの対策を行うことに越したことはないのですが、その対策を行うには、Aiによる予測が必要不可欠です。
こうしたAiの活用は二次対策を防いだり、被災状況をいち早く把握することは、結果的に防災、減災につながっていく事でしょう。